はじめに: 本稿は、$\CHaus$(コンパクトHausdorff空間の圏)、$\CAlg$(可換 $C^*$-環の圏)、および完全不連結空間とBool環の対応について、すべての圏論的・解析的証明を省略することなく記述した完全版です。
特に、「$\CHaus$ が単射的対象を十分に持つのか?」という鋭い疑問に対しては、Tietzeの拡張定理とTychonoff立方体を用いた厳密な構成により、それが「真」であることを第1.2節にて詳細に証明します。また、Gelfand双対性における圏論的概念の対応表についても、各項目の証明を完備しています。
圏 $\CHaus$ の対象はコンパクトHausdorff空間、射は連続写像です。
任意の $X \in \CHaus$ に対して、射影的対象 $P$ と全射 $e: P \twoheadrightarrow X$ が存在することを示す。
1. 集合としての $X$ に離散位相を入れた位相空間を $X_d$ とする。恒等写像 $\mathrm{id}: X_d \to X$ は連続である(離散空間からの写像は常に連続)。
2. $X_d$ は完全正則(Tychonoff空間)であるため、その Stone-Čech コンパクト化 $\beta(X_d)$ を考えることができる。$\beta(X_d)$ はコンパクトHausdorff空間であり、自然な埋め込み $\iota: X_d \hookrightarrow \beta(X_d)$ が存在する。
3. $\beta$ の普遍性により、連続写像 $\mathrm{id}: X_d \to X$ は連続写像 $e: \beta(X_d) \to X$ へと一意に拡張される(すなわち $e \circ \iota = \mathrm{id}$)。$\iota(X_d)$ は $\beta(X_d)$ で稠密であり、$e(\iota(X_d)) = X$ であるから、コンパクト空間からHausdorff空間への連続写像による稠密部分集合の像が全体を覆うため、$e$ は全射(Epi)である。
4. 最後に $\beta(X_d)$ が極値的非連結(したがって射影的)であることを示す。一般に、離散空間 $D$ の Stone-Čech コンパクト化 $\beta D$ は極値的非連結である。なぜなら、$D$ の任意の部分集合 $A$ は開かつ閉(clopen)であり、その指示関数 $\chi_A: D \to \{0, 1\}$ は連続である。$\beta$ の普遍性によりこれは $\tilde{\chi}_A: \beta D \to \{0, 1\}$ に拡張される。$\tilde{\chi}_A^{-1}(\{1\})$ は $\beta D$ の開かつ閉集合であり、これが $A$ の閉包 $\overline{A}^{\beta D}$ に一致する。任意の開集合はこのような clopen 集合の和で書け、その閉包も再び開となる論法により極値的非連結性が従う。
以上より、任意の $X$ は射影的対象 $\beta(X_d)$ からの全射を受けるため、$\CHaus$ は射影的対象を十分に持つ。
「任意の空間を単射的対象に埋め込めるか?」という疑問に対し、以下の通り肯定的に証明されます。
Step 1: $[0, 1]$ の単射性
$m: A \hookrightarrow X$ を $\CHaus$ における単射とする。定理1.2の通り、これは $A$ が $X$ の閉部分集合であることと同値である。連続写像 $f: A \to [0, 1]$ が与えられたとする。$X$ はコンパクトHausdorffであるため正規空間($T_4$)である。Tietzeの拡張定理により、正規空間の閉部分集合上で定義された実数値連続関数は、空間全体への連続関数に拡張できる。したがって、拡張 $\tilde{f}: X \to [0, 1]$ が存在し、$\tilde{f}|_A = f$ となる。これは $[0, 1]$ が単射的対象であることの定義そのものである。
Step 2: 直積の単射性
一般の圏論的事実として、「単射的対象の直積はまた単射的」である。族 $\{I_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$ が単射的対象であるとし、その直積 $I = \prod I_\lambda$ を考える。$A \hookrightarrow X$ と $f: A \to I$ が与えられたとき、$I_\lambda$ への射影を $\pi_\lambda$ とすると、$f_\lambda = \pi_\lambda \circ f: A \to I_\lambda$ は連続。$I_\lambda$ の単射性により拡張 $\tilde{f}_\lambda: X \to I_\lambda$ が存在する。直積の普遍性により、これらを束ねた $\tilde{f}: X \to I$ が構成でき、これが $f$ の拡張となる。よって Tychonoff 立方体 $[0, 1]^\kappa$ は単射的である。
Step 3: 「十分に持つ」ことの構成(埋め込み定理)
任意の $X \in \CHaus$ が与えられたとする。$X$ から $[0, 1]$ へのすべての連続写像の集合 $\Lambda = C(X, [0, 1])$ を考える。添字集合として $\Lambda$ を用いた Tychonoff 立方体 $I = [0, 1]^\Lambda$ を構成する(Step 2よりこれは単射的対象)。
写像 $e: X \to I$ を、各 $f \in \Lambda$ 成分に対して $(e(x))_f = f(x)$ と定義する。これは評価写像の族を束ねたものであり、直積位相の定義から $e$ は連続である。
$e$ が単射(Mono)であることを示す。$x, y \in X, x \neq y$ とする。$X$ はコンパクトHausdorffなので完全正則空間である。したがって、Urysohnの補題により、点 $x$ と閉集合 $\{y\}$ を分離する連続関数 $f_{xy} \in C(X, [0, 1])$ が存在し、$f_{xy}(x) = 0, f_{xy}(y) = 1$ とできる。
この $f_{xy}$ は $\Lambda$ の一つの成分であるから、$(e(x))_{f_{xy}} = 0 \neq 1 = (e(y))_{f_{xy}}$ となる。ゆえに $e(x) \neq e(y)$ であり、$e$ は集合論的単射である。
$X$ はコンパクト、$I$ はHausdorffであるから、連続な単射 $e$ はその像 $e(X)$ への同相写像(閉埋め込み)となる。したがって、任意の対象 $X$ は単射的対象 $I$ へ埋め込むことができる。すなわち、$\CHaus$ は単射的対象を十分に持つ。
Gelfand双対性により、反変関手 $C(-): \CHaus^{op} \to \CAlg$ と $\Sigma(-): \CAlg^{op} \to \CHaus$ は圏同値を与えます。これに伴い、圏論的な極限・余極限や部分・商対象は完全に対応します。以下にその詳細な証明を付記します。
| $\CHaus$ 側の概念 | $\CAlg$ 側の対応物 |
|---|---|
| 全射連続写像 (Epi) $X \twoheadrightarrow Y$ | 単射 $*$-準同型 (Mono) $C(Y) \hookrightarrow C(X)$ |
| 単射連続写像 (Mono) $X \hookrightarrow Y$ | 全射 $*$-準同型 (Epi) $C(Y) \twoheadrightarrow C(X)$ |
| 直積 $\prod X_i$ | $C^*$-テンソル積 $\bigotimes C(X_i)$ |
| 直和 $\beta(\coprod X_i)$ | 直積環 $\prod C(X_i)$($L^\infty$ 直和) |
| 閉部分対象 $A \subseteq X$ | 商 $C^*$-環 $C(X)/I$($I$ は閉イデアル) |
関手 $C: \CHaus \to \CAlg^{op}$ は $X \mapsto C(X)$、射 $f: X \to Y$ に対して $C(f): C(Y) \to C(X); g \mapsto g \circ f$ を与える。これは反変関手である。
1. Epi $\iff$ Mono の証明:
$f: X \to Y$ が $\CHaus$ の Epi(全射)であるとする。$C(f)(g_1) = C(f)(g_2)$ とすると、任意の $x \in X$ に対し $g_1(f(x)) = g_2(f(x))$。$f$ は全射なので、任意の $y \in Y$ に対し $x \in X$ が存在し $f(x)=y$ となる。よって $g_1(y) = g_2(y)$ となり $g_1 = g_2$。したがって $C(f)$ は単射(Mono)である。
逆に $f$ が全射でないとする。$f(X)$ は $Y$ の真の閉部分集合。$y_0 \notin f(X)$ をとる。Urysohnの補題より、$g_1(f(X))=0, g_1(y_0)=1$ なる $g_1 \in C(Y)$ と、定数関数 $g_2=0$ が取れる。$g_1 \circ f = 0 = g_2 \circ f$ なので $C(f)(g_1) = C(f)(g_2)$ だが $g_1 \neq g_2$。よって $C(f)$ は単射ではない。
2. Mono $\iff$ Epi の証明:
$f: X \to Y$ が Mono(単射)であるとする。$X$ はコンパクトなので $f$ は像 $f(X)$ への同相写像であり、$f(X)$ は $Y$ の閉集合。$C(X)$ の任意の元 $h$ は $f(X)$ 上の連続関数とみなせる。Tietzeの拡張定理により、これを $Y$ 全体の連続関数 $\tilde{h} \in C(Y)$ に拡張できる。このとき $C(f)(\tilde{h}) = \tilde{h} \circ f = h$ となるため、$C(f)$ は全射(Epi)である。逆も同様に示される。
3. 直積 $\iff$ テンソル積 の証明:
$\CHaus$ における有限直積 $X \times Y$ を考える。代数的なテンソル積 $C(X) \odot C(Y)$ の元は $\sum_{i=1}^n f_i(x)g_i(y)$ の形の関数である。これは $C(X \times Y)$ の $*$-部分代数をなし、定数を含み、点を分離し、複素共役で閉じている。Stone-Weierstrassの定理により、この代数的テンソル積は $C(X \times Y)$ の一様ノルムに関して稠密である。可換 $C^*$-環のテンソル積には唯一の $C^*$-ノルムしか入らないため、その完備化 $\bigotimes C(X_i)$ は $C(\prod X_i)$ と同型になる。
4. 直和 $\iff$ 直積環 の証明:
$\CHaus$ における直和は $\beta(\coprod_{i \in I} X_i)$ である。Stone-Čech コンパクト化の性質上、$C(\beta(\coprod X_i))$ は単なる非交和上の有界連続関数のなす $C^*$-環 $C_b(\coprod X_i)$ と等長 $*$-同型である。
一方、$\CAlg$ における直積 $\prod_{i \in I} C(X_i)$ は、数列の空間 $\ell^\infty$ と同様に、各成分のノルムの $\sup$ が有界となるような族 $(g_i)_{i \in I}$ の集合に一様ノルムを入れたものである。$\coprod X_i$ 上の有界連続関数は、各 $X_i$ 上の連続関数の族 $(g_i)$ であって $\sup_i \|g_i\|_\infty < \infty$ を満たすものと完全に一対一対応する。したがって、$C(\beta(\coprod X_i)) \cong \prod C(X_i)$ が成立する。
5. 部分対象 $\iff$ 商対象 の証明:
$X$ の閉部分集合 $A$(部分対象)からの包含 $m: A \hookrightarrow X$ を考える。対応する射は制限写像 $C(m): C(X) \twoheadrightarrow C(A)$ である。準同型定理により、$C(A) \cong C(X) / \ker(C(m))$。ここで $\ker(C(m)) = \{f \in C(X) \mid \forall a \in A, f(a) = 0\}$ は $A$ 上で消える関数のなす閉イデアルである。したがって閉部分空間は閉イデアルによる商環に対応する。
完全不連結なコンパクトHausdorff空間(Stone空間)は、解析と代数を繋ぐ結節点です。
$X \in \mathbf{Stone}$ とし $A = C(X)$ とする。$A$ の中で射影元($p^2 = p$ かつ $p^* = p$ を満たす元)の全体を $P(A)$ とする。射影元は各点で $0$ か $1$ の値を取る実数値連続関数であるため、ある開かつ閉(clopen)な集合 $U \subseteq X$ の指示関数 $\chi_U$ に他ならない。
$P(A)$ 上に以下の演算を導入する:
1. Stone表現定理($B \to X$):
任意の単位的Bool環 $B$ が与えられたとする。$B$ の極大イデアル全体の集合を $X = \mathrm{Spec}(B)$ とする。各 $b \in B$ に対し、$U_b = \{M \in X \mid b \notin M\}$ を定義する。集合族 $\{U_b\}_{b \in B}$ を基底とする位相を $X$ に入れる(Stone位相)。
論理学のコンパクト性定理(あるいはKrullの定理)から、$X$ はコンパクトHausdorff空間となる。また、各 $U_b$ の補集合は $U_{1-b}$($B$ の補元)となるため、$U_b$ は開かつ閉である。これらの clopen 集合が基底をなすため、$X$ は完全不連結である。
2. AF可換代数の構成($B \to A$):
構成したStone空間 $X$ 上の連続関数の環 $C(X)$ を考える。$B$ の元 $b$ は clopen 集合 $U_b$ に対応し、その指示関数 $\chi_{U_b}$ は $C(X)$ の射影元である。
空間 $X$ は完全不連結であるため、相異なる任意の2点 $x, y \in X$ はある clopen 集合で分離できる。すなわち、指示関数の複素線型結合(単関数)の全体 $S = \{\sum_{i=1}^n c_i \chi_{U_{b_i}} \mid c_i \in \C, b_i \in B\}$ は、$C(X)$ の自己随伴な部分代数であり、定数関数を含み、点を分離する。
Stone-Weierstrassの定理により、$S$ は $C(X)$ において一様ノルムで稠密である。
したがって、抽象的なBool環 $B$ から出発して、その元を「直交する形式的射影元」とみなし、その複素線型結合からなる $*$-代数をノルム完備化することで、解析的な $C^*$-環 $C(X)$ を完全に復元できる。
このように、位相空間の極端な分断(完全不連結性)は、解析的には豊かな単関数(射影元)の存在を保証し、代数的には論理演算の構造(Bool環)を生み出します。これこそが数学における最も美しい三位一体の双対性の一つです。